男性が口を閉じると、途端に頬を涙が伝った。
愛していたのだ、八咫烏の彼は、千鶴さんを。
自分の命を差し出してでも、助けたいと思うほどに。
「おやおや」
お面の彼は、困ったように笑うと、私にハンカチを差し出した。
それを受け取って涙を拭っていると。
「お嬢さんは、優しいのだね。こんな男の話で泣いてくれるとは」
と、男性は私の頭を撫でてくれた。
「だって、悲しいです。好き同士なのに結ばれることができないなんて」
そんな私の言葉に、彼は首をかしげた。
「わからないよ」
「えっ?」
驚いて彼を見上げると。
「現世では無理でも、来世。いや、あちらの世界で、2人は共にあれたかも知れない」
と、微笑んだのだった。
「……そうでしょうか」
「そう願うことしか、僕たちにはできませんね」
そう、おどけたふうに言う彼の髪を、風がさらさらとさらって行った。
「だって、ハッピーエンドじゃないと、つまらないでしょ?」
ケラケラと笑う彼は、相変わらず不思議な雰囲気を持っていた。