彼女は、ゆっくりと力を抜いた。
そして、浅い呼吸を繰り返し始めた。
「千鶴」
呼びかけても、返事は返ってこない。
嫌だ。
いくな、いってしまうな。
俺をおいていくな。
俺は…。
考えるより、身体が動いていた。
彼女の身体を抱き上げて、高く飛翔する。
そしてすぐ裏の社に降り立つ。
祠の前に膝をつくと、千鶴の肩を抱き寄せる。
「神よ、我が主よ。どうか、どうか俺の声に答えてくれ」
こんなにも必死にその存在を呼んだのは、いつぶりだろうか。
何度目かの声に、やっとそれは答えてくれた。
『美影か』
「神よ、どうか、彼女を助けてくれ。俺の元から彼女を奪わないでくれ」
必死な俺の声に、祠の主は静かに告げた。
『それはもう天命だ。私にはどうもできぬ』
神がそういうのだから、無理なのだろう。
しかし、そんな簡単に諦められるほど、俺の感情は軽くはなかった。