あの日を堺に、千鶴の体調はどんどん悪くなっていった。
医者が手を尽くしても、彼女の病は悪化するいっぽうであった。
それでも、俺が寝込む彼女の横に立つと、千鶴は弱々しくながら微笑んでくれるのだった。
「美影様、最期に一つ、お願いを聞いて頂けますか」
「……なんだ」
彼女は手探りで俺の手を握り。
「あの日の泉に、連れていっては頂けませんか」
「しかし」
「お願いです」
俺の手を握る彼女の手は、もはや力も入らぬほどに衰弱し、微笑む顔ですら、儚く散りゆく桜のようだった。
「……わかった」
こんなになってまでも願うのならば、と。
俺はなるべく千鶴に負担がかからないように抱き上げると、翼を広げた。