それからのこと、俺は何度か彼女の元を訪ねた。
そのうちに、彼女の名が千鶴であること、生まれつき病気であること、母が早くに亡くなっていることを知った。
そして、病気がちでありながら、千鶴が優しく、明るい娘であることも知った。
「狐さんは私と共にいて退屈ではございませんか?」
ある日の午後、唐突に尋ねられた質問に、俺が目を丸くしていると。
「私は、孤独ですから、もう、永くもございませんし」
弱々しく微笑んだ彼女。
彼女に死期が迫っていることは、千鶴自身も感じ取っているのだろう。
俺は、そんな彼女に一つの提案をした。
「お前に見せたいものがあるのだが」
そんな俺の言葉に、彼女は戸惑ったようで。
「私は見えませんよ」
「触れて知るのだろう」
ぱちぱちと瞬いた彼女は、やがて穏やかな微笑みを浮かべた。
「私で良いのでしたら、喜んで」
俺はそう頷いた彼女の手を引くと、そのまま抱き上げて翼を動かした。