彼女に進められ、俺は彼女が立つ縁側に座った。
すぐ横に彼女も腰を下ろし、首を傾げた。
「狐さんは何用でしょう?」
そう問いかける彼女に、一つの違和感を憶えた。
彼女と、目が合わないのだ。
俺を見ているようで、その視線は俺の横をすり抜けている。
それを見て、俺はあぁと納得した。
「お前もやはり、俺のことは見えぬか?」
見えているわけではなく、感じ取っているのだ。
俺の問いかけに、彼女はふるふると首を振った。
「私は光をとらえられないので。何も」
その言葉に、ようやく彼女が盲目であることを知った。
「それは病気故か?」
「そうだと聞いておりますが、物心ついた頃からなので自覚はありませんわ」
ふっと微笑んだ彼女はゆっくりと俺の肩に触れた。
そこから徐々に上に上がってきて、俺の頬に触れたところで止まった。
「見えないので、触れるのです。触れることで知るのですよ」
そう言って目を細めた彼女は。
「狐さんは、お優しいお顔をされているのね」
そう言って手を離した。
その温もりが離れていくことに、何故か俺は一抹の寂しさを覚えたのだった。