小道は意外にも入り組んでおり、なんだか小さな迷路のように感じた。
不思議な柄の猫、犬。
珍しい花に、形の歪なマンホール。
見上げれば、屋根と屋根の間から覗く、紅く染まり始めた夕焼け空。
「………すごい」
ついさっきまでの喧騒が嘘のように静かな場所。
まるで、世界から切り離されたような。
「……………?…」
空から視線を前に移すと、赤色が見えた。
ゆっくり近づくと、赤い、2本の柱で立っている大きな鳥居。
神社の名前のようなものはなく、ただそこにそびえていた。
「……神社?」
鳥居から視線をはずし、奥に向くと。
小さな境内がぽつんと置いてあった。
ゆっくりとその中に入っていく。
鳥居を潜った瞬間。
「っ!?」
前触れなく突風が吹いた。
咄嗟に顔を腕でおおい、風が過ぎ去るのを待つ。
少しして風がやみ、恐る恐る腕を下ろすと。
「やぁ、可愛いお嬢さん」
「っ!!?」
耳元で男性の声が聞こえた。
慌てて後ろを振り返ると、和服に身を包んだ背の高い人がいた。
その人は狐のお面を付けていて、顔は見えなかった。
声や体型からして、男性だろうか。
「………えっと…」
私は、風が連れてきたかのように突然現れた彼を見たまま、言葉を探した。
「あはは、ごめんね?驚かせるつもりはなかったんだけど」
からからと楽しそうに笑う彼は、着物の袖を持ち上げてお面に触れた。
「あの……貴方は、ここの人…ですか?」
言葉を選びながら話しかける。
「まぁ、そんなところだね。それで、君は女学生かな?」
「…は、い…」
お面から手を離した彼は、静かに首をかしげた。
「何故ここに?…いやなに、ここらは人が滅多にこないものでね」
「…学校帰りに…………路地を見つけて……」
「そうかそうか」
私の答えを聞いた彼は、そっと私に手を差し出した。
「では、どうだい?少し物語でも」
「え?いや、私は……」
もう帰ろうと、そう伝えようとしたけれど。
「…僕も退屈なんだ。……ひと時だけ、付き合ってくれないかい?」
そういった彼の表情は見えないはずなのに。
少しだけ、寂しそうに見えたから。
「………はい」
手を握ってしまった。
私を手を軽く握った彼は、境内の方へ私を連れていくと、階段に腰掛けた。
その横に私も座ると、彼は指でお面をかいた。
「…そうだね、何から話そうか」
悩んでいるその姿は、まるでいたずらを考えている子供のようだった。
「お嬢さん、恋物語は好きかい?」
「…はい」
「そうか、では、まずあの話から……」
話し始める彼の声は。
時々吹き付ける風の間をぬって、私の耳へと届いた。