「ねぇ、今何考えてる?」
「うーん。なんだと思う?」
日曜日の午後、柔らかな日差しが降り注ぐ和室では。
2人の男女が幸せそうに寄り添っていた。
「んー。俺のこと」
「ふふ、自意識過剰〜」
クスクスと笑う金色の女性。
その隣では、眉を潜めた男性が首を捻っていた。
「でもね、半分正解。私が考えてたのは…」
女性が唇の前で人差し指を立てて呟いたちょうどその時、私の襖が開いた。
「ママ?パパ?」
そこから顔を覗かせたのは、小さな女の子だった。
少女は父親に似て、黒髪がとても綺麗だった。
「はいはい、ここにいるわよ」
女性が微笑むと、少女は嬉しそうに母の元へ近づいた。
すると、その後に隠れていたのか、小さな男の子が顔を出した。
気の弱そうな少年は、狐耳がひょこひょこと揺れ、白銀の鱗が輝いていた。
「いまねー、りゅーとじぃじたちとかくれんぼしてるの」
りゅー、と呼ばれた少年は、女性と男性の顔を見ると、ぺこりと頭を下げた。
「そうなの。じゃあ隠れなきゃ」
「うんー。でもじぃじ、探すの下手くそさんだから、まよってるの」
あらあら、と女性が笑っていると。
「こら、誰が下手くそさんだと?」
と、開かれていた襖から男性が入ってきた。
彼は、少女と少年の頭に手を当てると、わしゃわしゃと撫で回した。
されている2人は、きゃーとかわーとか言いながらも嬉しそうだ。
「すまないな。2人にはゆっくりしていてもらおうと思ったんだが」
「いえ、気にしないでください。お義父さんこそ、娘たちの世話は大変ではないですか?」
女性の隣に座る男性が立ち上がって問いかける。
それを聞いて、お義父さんと呼ばれた彼はからからと楽しそうに笑った。
「孫は可愛いもんだ。大変など思わぬ」
そう言って、子供たちを連れて部屋をあとにした。
「お義父さん、なんか丸くなったね」
「そうかも。蓮巳くんが来たときは怒り心頭だったけど」
昔を思い出すかのように上を見つめる彼女に、蓮巳は顔をしかめた。
「あのときは取り付く島もなかったね」
「でも、今は気に入ってるみたいよ?」
そういった彼女の言葉に、2人とも何がおかしいのかクスクスと笑いだした。
「あ、そうだ珠紀。結局何を考えてたの」
蓮巳がふと思い出した様に問いかける。
それを聞いて珠紀は一瞬固まるが、あぁと納得したように笑った。
「それはね、……この子のこと」
そう言って珠紀は自身の腹部に手を乗せた。
「今度は男の子だったね」
「うん。姉弟になるの」
ゆっくりと蓮巳が珠紀の手に自身の手を重ねる。
「早く生まれてこないかな」
「ふふ。あと2ヶ月もあるよ?」
「今度こそ、パパって初めに呼ばせる」
なるほど、と珠紀は笑ってしまった。
娘が一番最初に言葉にしたのがママだったので、少し拗ねているようだ。
「じゃあうんと愛情を注がなきゃ」
「あいつにだって注いだんだけどな…」
ふふふ、と笑った珠紀は。
「あぁ、でも。私も忘れないでね?」
そう言って微笑んだ。
そんな彼女を見て、蓮巳は少し照れたようにそっぽを向いた。
「……………忘れるわけないっての。バーカ」
暖かな日差しの中。
他愛ない会話を広げながら、彼らは今日も、ゆっくりと時間を紡いでいく。