明らかにいつもと違う石川くんのせいで、更にめぐみさんという人物が気になってしまった。
年上?もしかして石川くんの初めての相手とか?……それとも
いろんな想像が頭の中で繰り広げられる。
「…………朱里先輩が気になってるみたいですよ。」
要くんの微笑みは、合わせろという合図。なので私はコクコクと頷いた。
「……バイト先の子が……知り合いみたいで。石川くんと仲が良いのかなぁ…なんて」
まだ私の推測だけど……。
うう…師匠に嘘をつく日がくるなんて。
ごめんなさい。
心の中で激しい謝罪をすると、石川くんは大きくため息をつく。
「……そうなんだ……。」
「……えっと…石川くんのお友達か何かでしょうか?」
そんなわけない。
女の子で間違いないなら、ただの友達なわけがないと思う。
だからこの質問は、的外れにも程があると思った。
「愛は高校の後輩だよ…」
こ、後輩か……やっぱりミーコちゃんは関連してそう……。
というかこの感じ、絶対ただの後輩だけじゃない。
よせばいいのに気になってしまって
「元カノだったりしますか……?」
なんて言ってしまった。
踏み込み過ぎたんじゃないのか……要くんは、よく聞いたみたいな顔してるけど、石川くんが彼女がいたことがないと言っているのなら消したい過去なのかもしれない。
それなら完全に墓穴だ。
ドキドキと反応を待っていると、師匠は静かに首を振った。
「付き合ってはないよ」
「あ、そ、そうなのですか。」
「……ただ特別な存在だったかな。身体の関係だけのね」
もらった答えに、ズキンっと胸がなる。
え…ズキン??何故??
小さく感じた胸の痛みに首を傾げた。
「……噂では知ってるんですけど、詳しく聞くとどんな人なんですか?」
「…まぁ一言でいうなら女王様かな。ただ体の相性が抜群で、趣味も同じだからね。美人でスタイル抜群だったから学校ではかなり有名だったよ。」
要くんと石川くんが話している最中も、少しモヤモヤが続く。
そうだよね…石川くんの特別な人だもん。絶対綺麗な人に決まってる。私にどこも当てはまる要素が見当たらないし、とんだ勘違いをするところだった。
「…それにしても元気なのかなぁ…彼女」
だって…こんな石川くん本当に初めて見た。
どうしてそういう関係だけだったんだろう。
石川くんが恋に疎すぎたから?
それとも何か事情があって、離れざるを得ない状況になったとか。
妄想に妄想を重ねたらとんでもないドラマが生まれた。
そうだよ。師匠に私なんかは似合わなさすぎる!!
「ねぇ、石川くんは愛ちゃんに会いたい?」
「え、まぁ。どうしてるんだろうかとは思うけどね。」
「それなら私に任せて!!」
探そう……愛ちゃんを。
普段お世話になってるんだもん。
それくらいして恩返ししたい。
彼女ができてしまえばこんなに頻繁には話せないだろうけど、彼のキューピットくらいはできるはず。
なんでもいいから何かしてあげたい!
「……任せてって…え?」
「ちょっとミーコちゃんのところにいってくる!!要くんも付いてきて!」
「え、あ、はい!」
「…朱里…ちょっと待って」
「大丈夫!なにも心配いらないからね!!!」
不思議そうな石川くんを置いて、決意を固めた。
胸がほんのり切ないのは多分、師匠が遠くなっちゃうから。それだけのこと。
それだけのことだよ。

