「うーん……」
私は夜になってもめぐみという名に頭を悩ませている。
石川くんが女の子の名前であそこまで反応を見せたのは、初めてのこと。
だからこそ余計に気になっていたのだ。
ミーコちゃんに聞こうと思ったのに、今日は仕事が忙しくておしゃべりをしてる暇もなかった。
ただ忙しくなる少し前に
「めぐみちゃんって知ってる?」
という質問に関して、彼女はかなり動揺していたから多分何か知ってる。
上がる時間さえ同じだったら詳しく聞けたかもしれないのに、タイミング悪いなぁ。
「はぁ…」
居酒屋をでて夜の繁華街を歩き出そうとすると、街灯にものすごい美人がもたれかかっていたのか目に映った。
長い黒髪
キリッとした目
おまけにスタイルが理想的
モデルさんか何かかな…思わず女の私も惚れ惚れするところ。
あまりの美人オーラに周りもザワついていた。
一瞬家に帰ること忘れそうになったよ…
早く帰ろ………
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「……んでそのめぐみって名前に本当に師匠が反応したのか?」
翌日、早速昨日の出来事を要くんに報告。
「うん。した」
「それで、そのバイトのやつに聞こうと思ったのになんの情報も得てないんだな?」
「その通り」
「お前、ほんと馬鹿だな。」
チッと激しい舌打ちをされて、思わず出たのは苦笑い。
要くんって顔は天使なのに絶好調に口が悪いよ。
「ミーコちゃんは絶対何か知ってるんだよ。そんな気がする」
「…お前なぁ…そんなの本人に直接聞けばいいだろ。ズカズカ人の心の中は踏み込むくせに
いまさら遠慮する理由はなんなわけ?」
「……いや…え、なんだろう…」
モヤッとする自分の心に思わず眉をしかめると、要くんも鏡みたいに眉をしかめた。
「要くん…真似してる?」
「はぁ?お前どんだけ天才的ポジティブ脳?んなわけないだろ。ってか話そらすな」
「う…すみません…」
ベンチに座ってギャーギャーと2人で言い合いしていると、向こうから石川くんがやってくる。
「あ、石川くんだ!」
「翔平先輩!?」
大きく2人で手を振ると、彼は何故だか険しい顔をした。
「…今日も敵意全開で清々しい…」
敵意?
ぽつりと要くんが呟いたけど、石川くんが近づいてきたことで天使モードに変わったので、詳しくはなんのことかわからない。
「…やぁ朱里」
「石川くん。こんにちは。」
「おつかれさまです。翔平先輩」
挨拶と共に背中を肘でどんっと叩いた弟弟子は、何事もなかったような笑顔を浮かべている。
はいはい。わかってますよ…
聞けってことですよね…
「ちょ、ちょうど良かった!私石川くんに聞きたいことがあったの。」
「聞きたいこと?」
「め…」
「め?」
「目の調子はどうかなって??」
何故だか聞いてしまうのが怖くて、ついつい話をそらしてしまう。
要くんが背中を突いてるよぉ…
だってどうしてか聞けないんだもん。
「今日も朱里の可愛い顔がしっかり見えてるよ」
照れくさい返事がきたので、顔を赤らめる私に要くんが痺れを切らした。
「翔平先輩…めぐみさんは元気ですか??」
私…要くんって本当に頭の回転が早いと思う。だって普通、こんなカマをかけれないもん。
「…めぐみを知ってるの??」
そして彼のおろした釣竿にまんまと師匠がかかってしまった。
……やっぱりいままでの反応と全然違う。