「はぁぁ。」


あれから数日。

石川くんを避けるため自分から会いに行かなくなったというのに。


彼は私の姿を見ると、とてもにこやかに手を振ってくれるし、なんなら話しかけてくれるし、身体の心配とかしてくれる。


つまり、全く避けられてない。


広大くんとのことを前向きに考えようにも、それはそれで利用してるみたいで出来ないし、要くんには会うたび睨まれるしで踏んだり蹴ったりだった。



「お疲れ様です。帰りましょうか。朱里ちゃん」

「あ、う、うん!」


バイト先にて、久しぶりにミーコちゃんと同じ時間に退勤だったので2人で一緒に帰ることに。


そういえば…石川くんのこと教えてくれたのも彼女。それなのに今のこの状況は何も話してない。



言うべきか言わざるべきかと悩ませていたら、先に口を開いたのはミーコちゃんだった。



「朱里ちゃん…石川先輩と付き合ってるって噂本当ですか?」

「っっ!!!?」


思わず驚いた猫みたいに飛び跳ねそうになる。


「な、な、なに!?その噂。」

「一年の間で、石川先輩に恋人ができたって噂になってるんですよ。」

「ない!ないから!絶対にないよ!」


流石大学1の人気者。
二年生だけじゃなく、一年生にまで。
いや、多分これは全学年に回ってるはずだ。


「石川先輩が女の子切るなんて前代未聞ですよ。ほんとに無いんですか?」


問い詰めるように首を傾げた彼女に、少しだけ言葉を詰まらせた。


「……本当に付き合ってはないの。だけど、石川くんの考えてることがわからないというか…」

「先輩の考えてることですか…?」

「そう!たまにね、もしかしたら彼は私のこと好きなんじゃないかなって思う時があるの。いやそんなこと考えるのは、おこがましいんだけど、どうしても思っちゃうの。」

「え、違うんですか?」

「いや、だって、石川くんってみんなに優しいでしょ?」



ぽつりと呟いた”優しい”というワードに、ミーコちゃんの顔が歪んでいく。


「…石川先輩が、優しい??」


そして初耳ですと言わんばかりの口調で考え込んでしまった。


「え、優しいよ。」

疑いしかなさそうな彼女に、これまでの経緯を事細かに話す。大ちゃんの喧嘩のことも。

話してるうちに余計に難しい顔になるミーコちゃんは、私が話し終わると


「信じられない……」


とそれだけ言った。


「…え、ど、どうして?」

「前にも言いましたけど、私は石川先輩と同じ高校でした。でも意地悪なイメージがどうも強くて」



意地悪っ!?
石川くんが!?


私とミーコちゃんの中の”石川翔平”に大きなズレがある。

同姓同名の別の人じゃないのか…なんてことまで考えた。



「ミーコちゃん高校の時石川くんと仲良かったの?」

「まさか!!私じゃなくて、友達が!」

「友達??」


その友達とやらは、石川くんに意地悪をされたんだろうか。想像もできない



「き、気にしなくて大丈夫です。」

「…そう?」

「はい!」



ミーコちゃんがこの話にあまり乗り気じゃなかったみたいなので、それ以上は聞かなかった。



話が終わったので話題を変えようと何か考えたときに、ふと要くんの顔が浮かぶ。


そういえば…ミーコちゃんは彼と同じ学年じゃないか。



「ね、ねぇ、ミーコちゃんは要くんのこと知ってる?」

「え、あ、雨宮くんですか?」

「そう!それ!!」

「知ってますよ。石川先輩には及びませんけど、彼も大学では結構有名です。天使みたいだって」


思わず出たのは苦笑い。
そうだよね。やっぱり天使にしか見えないよね。


「……女子の間では名物師弟なんですよ。石川先輩と雨宮くん」

「そ、そうなの?」

「雨宮くんハーフらしいんですけど、何故か大学入った時から先輩に憧れてるらしいです。コアなファンの情報では髪型も石川先輩に似せてるんだとか。」



初めて知ったその情報に思わず口が開きそうになった。


「そんなことまで調べちゃうファンまでいるの!?」

「…そうですね。その子達は2人の様子を遠くから見守る感じのファンです。」



いろんなファンがいるんだなと思わず感心する。それと同時に要くんへの罪悪感が上昇した。



……一度にやってきた複数の問題を片付ける為に、やっぱり要くんとわかりあうべきじゃないだろうか。


何度も挫折しかけたけど、ここはどうしても通らなければならない道。お節介だけど、あの苦痛の表情もきになるもん。





「ミーコちゃんありがとう」

「…え、なんのお礼ですか?」

「私頑張るから!」

「え、え?え!?」



訳の分かっていない彼女はさておいて、最初に片付けるべき悩みの種の解決方法を探すことにした