とりあえず約束を守る為、石川くんに見つからない様にと素早く帰ることにした。


無事に大学の門を抜けて道を歩くと、要くんの姿。


…帰るタイミングが被ったんだ


何となく先ほどの様子が気になったので、走って駆け寄る。


「要くん!!」


名前を呼ぶとこちらを振り返った彼は、怪訝な表情をし、無視して足を進めた。


まぁ…そうだよね。
消えろと言われたくらいだもんね。


「…か、要くん…」

「寄るな。」

「ねぇ、そんなこと言わないで。さっき顔色悪かったけどもう大丈夫?」

「うるさい」

「……誤解を解きたいからゆっくり話したいの」


何度も何度も話し掛けていたらついに物凄い顔で睨みつけられた。


「お前と話すことなんて何もない!!」


やっぱり聞く耳持ってくれないか……
どうやったらちゃんと話し合って、分かり合えるんだろう。



色々考え、ない頭で1つだけ方法を見つけた


「……要くんはどうして石川くんのこと尊敬してるの??」


ダメ元で放ったのは、私と彼の間にある共通の気持ち。


どうしてお前にそんなことを言わなくてはいけないのか。


そう一喝されたら終わりなんだけど、どうやら少し効果があったみたいだ。足を止めてくれたから。



「……別に。女にものすごく冷たいところがいいと思ってただけだ。」


本当はもっと理由があるんだと思う。
だけど、彼は再びキッと私を睨むと


「…っていうかどうしてお前に言わなきゃいけないんだ」


想像通りの台詞を向けてくる。


やっぱりダメか…


「…いまの翔平先輩は腑抜けでカッコ悪い。お前みたいなブスに構って、女の誘い断って、ほんと最悪。お前のところに走っていく姿みたし」

「……要くん……」

「……お前のそばに居ると、翔平先輩は見たことない顔で笑うから、見るに耐えかねない。」


………見られていたみたいだ。
仕方ないよ。石川くん目立つもん。



しかもそのせいで要くんに憧れているはずの師匠のことまで悪く言わせてしまった…きっと心から思ったわけじゃないと思う。勢いあまってしまったのかな…



「このままあの人が元に戻らなかったら、俺があの人越えてやる!!!」


私がどんな言葉をかけたらいいんだと悩んでるうちに、要くんは強くそう言うと早足で再び歩き出した。


「…あ、」


近づくなという雰囲気を強く感じたせいで、もうこれ以上は引き止められない。


要くんの背中が小さくなっていって、大きく出たため息。


私は一体どうしたら良いんだろ…





ボーッと突っ立っていると、大学からでてきた女の子達の声がして反射的にそちらを振り向いた。


1人は泣いていて、それを2人が慰めている。


なんだかよからぬ雰囲気。


気配を消すために、細い道に入って電柱の側で身を縮めた。



……彼女たちの会話の中で所々でてくるのは石川くんの名前。


どうやら泣いてる子が彼を誘って断られたみたいだ…


…広大くんの言ったこと本当ってことだよね…
…みんなの王子様なのに……誘いを断ったことないって噂だったのに。




”朱里のこと好きすぎじゃん”


頭の中のつーちゃんの台詞を振り払うようにブンブン首を振った。


なんかもう色んな人からの言葉が頭の中でこんがらがってるよ…


もぉおおおお!

とこのまま叫びたいくらいに。



「……期待しちゃダメ…自惚れるな私」


いままで私の恋は二回も失敗してる。
だからちゃんと冷静に考えなきゃいけない。



臆病な自分に大きくため息を吐いて、1つずつ解決していこうと、頭の中を整理した。


……石川くんと話せないのが寂しいという感情に名前があるのかと考えながら。