私…石川くんを驚かすようなこと言ったかな??

不思議に思ってジッと彼を見つめていると

「俺の上に乗っかってあんなに泣いていたのに、また恋をするって言うから驚いてる」

私の心の声を読んだのか石川くんがそう言ってきた。


「……ま、まぁそうだけど。でもね、あんな目にあって一つだけいいことがあったの!!」

「いいこと?」

今度は彼の方が不思議そうな顔をしたので、ギュッと自分よりも大きな手を握る。


「石川くんに出会えたことだよ!!」

「!!」

「……きっと石川くんがいなかったら、私はずっと落ち込んで泣いてたと思う。だけどこの身体のこと親身になってくれるし、もう怖いものなんかないよ!!」


……さっきまで悲しい気持ちだったのに、そんなもの薄れてる。

石川くんってほんとにすごいや。


「俺のこと…………汚いとか思わないの?」


感心していると、何を思ったのか彼はいきなりそんなことを呟いた。


「え、なんで?」

「……やってることは君の元彼や友達と同じだよ。感情がないだけで。朱里みたいな純粋な子は、嫌がりそうだと思うんだけど……。」

「でも石川くん…恋人はいないでしょ?モテるのに。」

「いや……そうじゃなくて」

「……石川くんは正直だもん。特定の人を作って嘘をついたり、騙して浮気したりしてない。みんな平等に接して、感情がないことも伝えてるじゃん。甘い言葉で嘘なんていくらでもつけるのに、関係を割り切ってるでしょ?」


恋心につけこんで、騙してお金を取る人もいるし、いくらでも嘘を重ねることはできるのに…石川くんは絶対そういうことはしていない。


それをしない彼だからこそ私はいまこうして懐いているのだ。


「……石川くんが本気で自分から誘わないこと、後をつけたから知ってるもん。」


離すタイミングがわからなくて、ずっと握っていた手についつい力が入る


「女の子を幸せにする神の手だから汚くなんかない!!!私にとってはこの手はすごく綺麗だし眩しいよ!」


完全に固まってしまった石川くん。


黄金色の夕陽が彼を照らす。その姿が美しすぎて思わず息を飲んだ。


石川くんはそんな私の手をギュッと力強く握り返し、そのままグイッと自分の方に引き寄せた。そのせいでバランスを崩して、石川くんの胸の中へ。


「…??」

抱き締められてる?いや、まさかね。
またぶつかりそうなのを助けてくれたのかな?


だけど、包み込まれたまま動かないのでとりあえず身を任せた。


……そういえば石川くん…彼氏いる子も抱いてるって言ったけど、後で知るんだろうな。そんなこと。

だって私の観察上、彼氏いるけど抱いてください!なんていう子1人もいなかったもの。

来るもの拒まないっていうのも大変だよね。


彼の胸の中でそんなことを考えていたけれど、抱き締めてもらってることが図々しい気がしてくる。


「……石川くん??」


私がソッと名前を呼ぶと

「…ん?ああ…ごめんね」

身体はゆっくりと離れてしまった。


「…よくわからないけど…身体が勝手に動いたんだ…。ごめん」


謝られたけれど、何がごめんなのか全くわからない。こんなのご褒美でしかないもの!


「あれだ!弟子からの敬愛が激しかったから、ご褒美くれたんでしょ!ありがとうございます!押忍っ!!」


空手家みたいにポーズを決めたら、満面の笑みを向けられる。


「……今日来たカフェも素敵だったけど、今度は俺が朱里の好きそうな店を探しとくよ。」

「え!!?ほんと!?」

「うん。必ずね。約束する」


まさかそんなことを言ってもらえるとは思ってなかったので、私は驚きを隠せない


「嬉しい!!!絶対いく!!」

「……はは…飛び跳ねなくてもいいよ。ほら家まで送ってく」

「…あ、ううん!!今日ね、バイトがあるの!そのまま行こうと思ってたんだ。だから大丈夫だよ!」

「……そっか気をつけてね。」

「石川くんもね!!」


私はバイバイと手を振った。だけど石川くんはその場から動かない。


えっと…私から行くべきなのかな?


「……朱里」

「え、あ、はい!」

「ありがとう。ごちそうさま。」


とても律儀な彼に

これを言うためか!

と納得する。


「また明日、探して会いに行くからね!」


そう言って笑うと、鏡のように笑顔を見せてくれた石川くんが


「まってるよ」


なんて言ってくれた。


名残惜しいけど、手を振って私はバイト先へ向かう道を歩き出す。


石川くん……いい匂いがした……
それに”待ってるよ”だって。
まさか大学一のイケメンにそんなこと言ってもらえるなんて、夢にも思ってなかったなぁ。


弟子になって優遇されてるしかなり嬉しい!


「……よしっ。華奈と大ちゃん見てろよ!」


また二人をみたら傷つくかも知れないけれど、今回は石川くんのおかげで回復できた。


バイトも頑張れそう。


抱き締められたなんて他の女子に知れたら怖いな。とか考えたけれど、弟子愛を見せてくれた彼に私の顔のにやけは止まらなかった。