それから少しだけ話したけれど石川くんは意外に表情豊かだということがわかった。
よく笑ってくれるなぁ……クールなイメージがあったけどそうじゃないのかな?
話が弾むとあっという間に時間になったので、名残惜しくもお店をでる。
「今日は本当にありがとう。石川くん」
丁寧に頭を下げる私
「……朱里」
「ん?どうしたの?」
「すごく楽しかったよ。こちらこそありがとう」
そのお礼にキョトンとした顔を向けて
「……そういうことしてないのに?」
と真面目に質問すればまたクスッと笑われた。
「うん。してなくても楽しかった」
「ほんと?私ただ喋ってただけだよ?」
「そうだね。」
なんでだろう。お色気シーンは石川くんしかなかったはずなのに。
そう思って顔をしかめるとソッと髪に触れられる。
いきなりだったから身体が固まったじゃないですか!…というか指先が少し首に当たってくすぐったい!!触り方もなんかエロいし……。
「……あ、あの」
「……ポテトご馳走様。また明日ね」
「あ、わ、私も色々ご馳走様でした」
「…ふふ…なにそれ。… 」
離れた手にいまのはご褒美の一つか!? と心の中でサンバを踊る
そして優しく微笑んでいる彼に私はすぐ笑顔を向けた
「本当にお世話になりました!!また明日!明日もどうぞよろしくお願いします!師匠!!」
イケメンを師匠と呼ぶ謎の女に通行人が反応したけれど、そんなことは気にならない。
「……うん。また明日ね」
そう言った石川くんはポンポンと私の頭を撫でると、背中を向けて歩いていった
あー……背中からもエロスがでてる
さすが神様。
大学ではドエスで冷たいなんて噂あるけど、全然そんな感じじゃないし更に触り方まで優しかったよね。とにかく色気がすごいという噂は間違いではないけれど。こんなにゾクゾクしたの初めてだ。
小さくなっていく師匠を確認して私も家へと帰った。
付き合わせすぎるのも悪いし、頑張らなくっちゃ。
そんなことを強く意気込みながら、決意を固めたのだった。
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次の日
石川師匠に選んでもらった下着と服をばっちり着た私は、もう大学の中にいた。
勝負の日でもないのに勝負下着つけてるのと、あと緊張かな?身体が少し熱い。これが石川くんの狙う興奮ってやつ!?さっそく効果出てるとかすごい!
とか思っていたけど人が増えるにつれさすがに恥ずかしくなってきた
だって鏡で見たけど形わかっちゃうし、油断したら透けるしやばいでしょ。まぁそんな姿を男の子達が見てるのかすら謎だけど。
石川くんに会うため約束の場所に立ち、そこにある木に少し寄りかかる。
まぁここにいても視線は感じないかな?
「顔が火照ってる」
そう呟いてふぅと一息ついたら友達とはしゃぐ男子達が近づいて来た。
さらにはこっちを向いて
「あれ朱里ちゃん?」
「あ、まじだ。雰囲気違う格好してる。」
「なんかエロいな……お前と一緒で新しい人みつけたんじゃねぇの?」
なんて大きな声で話してる。
名前を知られてる時点で知り合いなのはわかったし、更に”お前”と呼ばれた人物のことも冷静に考えればすぐにわかりそうなものだ。だけど何故だかそこまで頭が回らなくてついついその方向に視線を移してしまった。
「あ…」
大ちゃん………
今更見なきゃ良かったなんて遅い。ばっちり目が合ってしまってる。
時間にすればほんの数秒
向こうが先に私から視線を外した。
なによ。大ちゃん。
そっけない態度にこちらもプイッと顔を背ける。その後私の前を通り過ぎたので、だっさい背中に舌でも出してやろうと思い再度彼を見た。
「………?」
大ちゃんのカバンに全く似合わないハートを抱いた可愛いうさぎの人形がついているのを発見する。歩く振動に合わせてゆらゆら揺れているから余計に目立った。
いま流行りのカップルでつける人形
更に私はあのうさぎが大好きな人物を知っている。
『このうさぎには恋人がいるんだよ。朱里。可愛いでしょ?』
『ほんとだ!可愛いね!!私には全然似合わないと思うけど華奈にはすごく似合う!』
『ふふ。これ恋人同士でつけたら幸せになれるんだって!彼氏とつける?プレゼントしようか?』
『いや!いいよっ!!大ちゃんこういうの好きじゃないから暴言吐かれる!』
『…そっかぁ。ならいつか出来る恋人とつけよっと。』
『うん!応援してるね!!』
数ヶ月前の会話が昨日のことのように鮮明に思い出された。
頭がガンガンする。
私には好きじゃないって言ったくせに。
すごく悔しくて、スカートをギュッと握りしめた。
悔しい。みてろ大ちゃん!!
絶対、絶対、絶対
見返してやる!!!!

