お手洗いで服装を少し直し、サークル軍団を抜ける。そして女子達の視線を気にしながら石川くんの元へと向かった。


えっと……どこかな……?
おお!いたっ!!


「はっ!!」

彼を見つけて早々、私はおもわず立ち止まる

木に寄りかかってスマホを見つめているだけ……それなのに、それなのに、なんて美しいのぉおおおお!?


うっとりとしながらその光景を見ていると、その視線に気がついたのか石川くんは顔を上げた。


「何してるの?朱里。ニヤニヤして」

「神々しいなぁと思って見ておりました……ねぇ…貴方は人間界に舞い降りた美の神なんじゃないですか?ほんとに人??」

「……なにそれ……面白いこと言うね」


クスクス笑う石川くんも驚くほど輝いているんですけど。


「私にとって師匠は神様ですもの。……ハハーッ…神サマー!!麗しゅうございます!!」


「こらこら…拝まないの。」


石川教の信者になった私。熱心に合掌してお祈りをしていたのに、近づいてきた彼にその手を引き離されてしまった。


「石川教の開設者になってもいい?」

「なにそれ…ダメだよ…っ」

「えー!!!」

絶対恐ろしい数の信者になること間違いなしなのにダメなんだ。


笑っている師匠の前でしょんぼりしてしまった。


「ほら、大学だと見つかっちゃうからさっさと行こう」

「あ、は、はい!」


まぁもう宗教はあるようなものか。

と勝手に心の中で納得した私の手を彼はソッと掴む。


「……!?」

「ほらこっちだよ。おいで」

な、なんて美しい手なの!?そしてこの顔!!いま漫画だったら間違いなくバラが舞ってる!!


女の子たちに見つかれば殺られるけど、今日が命日でも仕方ないな。いやでもやっぱり死ぬのは嫌です。


興奮しながらその美しい手を見つめていると、私の手を掴んだまま石川くんは歩き出す


そして塀の前で立ち止まった。

「よし。行こう」

「え……もしかして乗り越えるの!?」

「そうだよ。うまいこと塀と木が近くて唯一簡単に大学の外に逃げ出せる場所だからね」

「に、人気者は違うなぁ……」


いつも追いかけ回されるから見つけたんだろうけど、こんなところがあったなんて。

勉強してるんだな。石川くんも。


そう思いながら突っ立っていると

「鞄。危ないから貸してね」

なんて鞄を取られる


不思議に思っていると、いきなり腰に手を回されたのでギョッとしてしまった。

「…いくよ。よし」

しかもそのまま軽々しく持ち上げられたではないか。


「え、え、え!?」

「登れる??」

「あ、い、行けますけど!!」


師匠って力もあるんですね…完璧すぎなのですね!!!

木を登る手助けをしてもらい、塀の上で一旦落ち着く。すると石川くんが下から鞄を投げてくれたのでキャッチした。


「そこで待ってて」

「待ちますとも!!」

おまけに微笑まれたのでおとなしく待つ。


ヒョイと慣れた様子で塀を乗り越え、軽々しく大学から脱出した彼。


うぉおお!!映画でしか見たことない!!こんなの!!


パチパチと手を叩くと鞄を投げるように指示があったので受け取ってもらった。


そして……


「少し高いから飛べる?」


両手を広げた神が降臨


これは美の神様も嫉妬するレベル


飛べるって聞くということはその手に受け止められるということですね!!やばぁああああい!!


「い、いいんですか!私のような三下がその手の中に飛んで!」

「……こら笑わせないで。早く飛んで。誰か来るよ」

人通りが少ない道に出られるとは言え、この姿を見られるのは少し恥ずかしい。

そう思って軽く飛ぶとびっくりするくらいあっさり受け止められた


ああ……抱きしめられてる……
今日はお赤飯だよ。お母さん。

「うん。意外に…」

「え?なに?」

「ううん。こっちの話。いこうか。」


身体が離れ背中を向けて歩き出した石川くんに、慌ててついていく


おお…石川神よ

勝手に崇め奉り、拝む私をお許しください


見られないようにひっそり手を合わせたことは石川くんには内緒。