「ほら……でておいで」

これまずいよね。怒られる?
っていうかなんでばれたの。絶対完ぺきな死角に居たのに!!

動揺で混乱してしまった私は、速くなる心臓を抑えてゴクリと息を飲んだ。

「にゃ、にゃあー」

そして思わず猫の鳴き真似。

「……なんだ猫か……」

正直こんな古典的すぎる誤魔化しが石川くんに効くなんて思ってもなかったけど、何故か効いてしまった。

ラ、ラッキー

ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間


「……随分大きな猫だね。」

「へ…」

いきなり腕を掴まれてグイッと引き上げられたのだ。


「きやっ!」


勢いがあったのでそのままよろけると石川くんの右手に抱き止められる。そして私が逃げないようにか、その手に力が入ったのがわかった。


「首輪がついてないね……野良猫かな?」

「あ、は、はは」


ニコリと笑う彼とは違い、苦笑いで誤魔化す私


「いまので騙せると思った?猫の真似も下手だったよ」

「ご、ごめんなさい……つい……」


呆れたような声に申し訳ないとは思うのだけれど、それよりも衣服が少し乱れている石川くんが妙に色っぽくて集中できない。


「……聞いてるの?朱里」

「は、はい。聞いてます。」

「そんなに付きまとわれたら色々困るんだけど」


いまだに緩まらない腕の中で綺麗な瞳に見据えられている。吸い込まれそう……ってか顔整いすぎでしょ。


「師匠の行動を把握するのは弟子の使命!!地の果てでもついていきます!!」

こうなったら開き直ってやろうと、しっかり見つめ返して言葉を放つ

「……はぁ」

あ……腕がゆるまった


ため息と共に解放された身体。少しだけ残念なのは内緒だ。


「ほんとに変わった子だね。君は」

「……やっぱり師匠って呼ぶのは変わってる?お師匠様の方がいいかな?」

「いや……いまそれは全然関係ないかな。しかも何か根本的におかしい」

「え!?そうなの!?」

ギョッとびっくりして目を見開いたら、呆れながらもおかしそうに石川くんは笑ってた。


「……うん。兎に角次は付いて来ちゃダ」

「それにしてもすごいね!石川くん!もう2人目でしょ?ギネス狙えるんじゃない!?」

「……人の話を遮ってすごい唐突にテンション上げてきた」

「だって感心してたんだもん」


軽く笑って服を整えた石川くんは


「ちなみに今のが一人目だよ」

と私の質問にちゃんと答えてくれた。


「え!?」

「いくら俺が女たらしでも必要な単位はとるよ。そうじゃないと大学になんてきてない」

「あ……そうだよね。」

「…それで人の楽しみを覗いた感想は?」


覗いた感想

そんなこと言われても感想文なんて考えてない。いや違う、っていうか覗いてない!!


「覗いてない!目は使ってないよ!耳だけ!!音だけです」

「それでも十分だよ」


私の言い訳も虚しくお説教が来るのかとビクビクしていると、彼の方に引き寄せられ再び身体が密着し、クイッと顎を掴まれた

「……いろいろ我慢できなくなってるんじゃない?」

鼻先が触れあうほど、顔が近づき長い指で唇をなぞられる。
心臓がドキドキ音を立てた

な、なんという神シチュエーション


「が、我慢って」

「例えば興奮したから何かして欲しいとか」

「…え、興奮?」

「そう」

まさにゆっくり唇が近付いてきたと思ったけど

「石川くんすごい!最高!!さすが師匠!っていう興奮ならしたけどそれかな……」


私がそう言うとピタリと彼の動きが止まった。


「え……それ本当に言ってる?」

「うん!!私感動でメモいっぱいとったよ!!」


私の笑顔とは対照的になんとも言えない顔してる石川くんもかっこいいなぁと心から思う。


しかしどうしてこうもまぁ固まっているのかは謎だ。