数人の兵が少年を後追いしようとすると、すかさずアークは強い口調で言った。

「止めろ!無駄な労力は使うな。もし、あの少年に何かあれば、お前たちの命はないぞ。肝に銘じておけ!」

アークの言葉で兵士たちは少年を追走することさえ考えなくなった。

「アーク様、なぜあの少年を逃がしたのです?」

ジェミラス自身の方がアークよりもその答えをよくわかっていたかもしれない。

だが、彼はどうしてもアークに聞いてみたかったのだ。

「ただの気まぐれだ。ジェミラス、お前もいつ私を殺してもいいんだぞ。方法はいくらでもある。毒を盛ってもいいし、寝込みを襲ってもいい。私はお前の父の敵なのだから」

人をどこか馬鹿にしたようなアークのその口調。

ジェミラスには、彼の後ろ姿がなぜか悲しそうに見えた。

「私はアーク様の部下です。たとえ、あなたが父の敵としても……」

「ふん、腰抜けが」

アークはジェミラスの方を振り返ると、鼻で笑った。

こんなに馬鹿にされても、ジェミラスは決して怒ることなく平然としていた。