少年はこの状況が理解できず、ただ呆然としていた。

「何をボーッとしている?私を殺してみろと言っているんだぞ。お前にとってこんなチャンスはないだろう?」

挑発的なアークの口調に、少年はハッと我に返る。

訳がわからぬまま少年はアークの剣を拾い、そしてそれをアークに向けた。

「そうだ。それでいい。そのまま私を刺せ」

仮面のせいでアークの表情はわからなかったが、この時の彼の目はいつもの氷のように冷たいものではなく、とても穏やかなものだった。

そのことに気づいていたのはこの場でジェミラスひとりだったかもしれない。

だが、少年も間近でアークの瞳を覗き込むうちにそのことに気づいた。

“正常な人間ならこんなことをするだろうか?”と、そんな考えが少年の頭を過る。

今の少年にとってアークは世界で一番不可思議な存在だった。

「何を迷う?ぐずぐずしてると私の気が変わるぞ」