オレンジ・ドロップ



ゴミ箱までは結構な距離があったのに、燿が投げた空き缶は、カランと軽快な音をたててちゃんとゴミ箱の中に収まる。


「おー、さすが!」

「あんな近距離で外す柑奈のコントロールが悪いんだよ」

「見てたの?」

「見てるよ」

ゴミ箱から視線を戻すと、真顔の燿と目が合った。

視線がぶつかり合った瞬間、燿の瞳が切なげに揺れる。


「やっぱり、響がいいって思った?」

「何の話?」

「響と一緒に遊園地回ってデートみたいなことして。それでやっぱり響が好きだって思ったから、落ち込んでたんだろ?」

燿がなんだか苦しそうに、睨むようにあたしを見下ろしてくる。

燿の眼差しに胸が小さく震えたけれど、燿の言っていることは全くピンとこなかった。

響と一緒に遊園地を回ったことは、確かに少しデートっぽかったかもしれない。

響が見せる表情にちょっとときめいた瞬間だってあった。

でも、ただ普通にときめいただけ。好きなアイドルとか俳優にきゅんとしちゃうたまたいに。

響と梨里が付き合ってるっていう事実を、あたしの心はちゃんと受け止め始めているから、今のあたしには、響の特別になりたいという気持ちはほとんどない。