オレンジ・ドロップ





「じゃぁ燿ちゃん、ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」

部屋から出て行くお母さんに、燿がにこりと笑顔を返す。


「どうして部屋にまで上がりこんでくるのよ」

ドアが閉まって、お母さんの足音が完全に遠退いてから、あたしの部屋でくつろぐ燿をじろっと睨む。


「そんなの、柑奈と一緒にいたいからに決まってるじゃん」

燿が恥ずかしげもなくそう言いながら、あたしににこりと笑いかけてくる。

何言い出すんだ、こいつ!

そう思いながらも、燿の優しげな表情と甘い言葉に一瞬ドキリとしてしまう。

左右に視線を彷徨わせていると、燿がぷっと吹き出した。


「なーんて言われたら、ドキっとする?」


あたし、また揶揄われた?

燿の言うとおり、一瞬でもドキっとしてしまった自分が悔しい。


「早く帰れば?」

「やだよ。言ったじゃん。柑奈と一緒にいたいって」

悪戯っぽく瞳を揺らしながらまたそんなことを言うから、何を考えているのか全然わからない。

だけど、これ以上は絶対に燿のペースに巻き込まれないんだから。

宣戦布告の意味も込めて、お母さんが持ってきたスナック菓子を摘み始めた燿の横顔をジッと睨む。

そんなあたしの視線に気付いていないのか、燿は自分の好きなお菓子をいくつか選んで食べたあと、部屋の本棚の中からマンガを一冊手に取った。