こんなときに会いたくないやつだった。


「離して。急いでるの」

冷たい声でそう言ったけど、そいつはたぶん聞こえててあたしの腕を離さない。


「何でそんな機嫌悪いの?ていうか、柑奈顔色悪くない?あ、もしかしてついに響に振られた?」

悪意のない顔でケラケラ笑う、そいつの言葉がグサリと胸に刺さった。


「え?あんた、響に彼女いるって知ってたの?ていうか、ついに振られたって何?あたしは別に響のことなんて何とも……」

「あ、いつの間にかあいつ彼女になったんだ」

真っ赤になって響への想いを否定したけど、そいつはあっさりとそれを聞き流す。

どうしてあたしの気持ちをこいつが知ってんのよ。

それよりも……


「あいつって誰?(よう)、あんた響の彼女が誰だか知ってるの?」

「さぁ?」

目の前のそいつ。燿がわざとらしく肩を竦めてにやりと笑った。


「さぁってどういうこと?何か知ってるなら教えてよ」

「えー、教えたら柑奈何してくれる?」

「いつも言ってるけど呼び捨てにしないで。あたし、あんたの高校の先輩」

「えー、ひとつしか違わないじゃん」

「そういうの、先輩っていうのっ!」