「わるかったですねー、下手で」
「どうせ初めてだし……」とそこは小さくぼやいて、目の前に立ちはだかる燿を押し退ける。
「初めてなんだ?ラッキー!」
あたしのぼやきが聞こえたらしい。
燿が後ろで揶揄う声がする。
あたしってば、何してるんだ。
燿なんかにちょっと……いや、だいぶドキドキして、流れでキスさせちゃうなんて。
ずっと響ひとすじで、まだ響のこと好きなのに。
これじゃあ、軽い女みたいじゃん。
何だか少し湿っぽい唇を手の甲で拭う。
教室戻ろう。
今のはナシだ、ナシ!
年下幼なじみにからかわれるなんて、ほんと恥ずかしい。
燿に背中を向けて歩き出そうとすると、後ろにぐいっと引っ張られた。
背中が何かにトンッとぶつかって、燿の左腕がお腹の前に回る。
びっくりして上を見ると、あたしの顔を覗き込む燿の顔が逆さまに見えた。
「柑ちゃん、俺今から本気出すから」
燿がふっと不敵な笑みを浮かべる。
それは、可愛くてちょっと生意気な年下の幼なじみとは違う。あたしの知らない男の子の顔だった。