「燿、言ってることよくわかんないよ。冗談は休み休み言ってよね」

引きつった笑みを浮かべていると、燿があたしを非常階段に続くドアに押し付けるようにトンと右手をついた。

燿が一瞬顔を顰めるから、そういえばさっき捻ったと言ってたことを思い出す。


「燿、手首大丈夫?」

顔のすぐそばにある右手を気にしながら訊ねると、燿が苦笑いした。


「柑奈のこと捕まえるのに必死で忘れてた」

「え?」

燿の言葉に、かっと頬に熱が集まる。

慌てて視線を落とすと、それに気づいた燿があたしの顔を覗き込むようにして笑った。


「柑奈。俺、本気だよ。響なんてやめて、俺にしなよ」

燿があたしの耳元でささやく。

耳朶にかかる熱い吐息に思わず絆されそうになって。

でも、頑として首を横に振った。


「何言ってんのよ。だってあたしはずっとひび────」

最後まで言い終えないうちに、唇が塞がれた。