走っていると勝手に涙が込み上げてきてどうしようもなくて。走りながら何度も目元を拭う。


「柑ちゃんっ!」

廊下の端まで走って非常階段に繋がるドアの前にたどり着いたとき、切羽詰まったみたいな声で名前を呼ばれて手首をつかまれた。

振り返ると、珍しく必死な目をした燿がいた。


「燿……?」

「好き」

「え?」

ぽかんと口を開けると、燿の表情がなぜか切なげに歪んだ。


「俺、柑奈のことが好き」

もう一度、今度ははっきりと言われて頭が真っ白になった。


「え……え?何で?」

「理由なんてないけど。高校入ってから、響のことをいつも幸せそうに見てる柑奈のことが気になって。気づいたら好きになってた」

「え?何それ。だって燿、あたしよりも梨里のほうが可愛いって言ってたよね」

「うん。だけどそれ、一般論だって言ったよね。別に柑奈が可愛くないとは言ってない」

乾いた笑い声を出すあたしを見下ろして、燿が笑う。