「そんなこと言って元気じゃん。もうすぐ授業始まるし」
「そんなマジメだったっけ?」
「英語のヒガシ、遅刻にすごい厳しいんだよ。チャイムと同時に滑り込んでも、課題山程出すの」
「へぇ」
「だから、もう行くね」
彼女の指先がカーテンにかかる。
やばい、出てくる……
隠れる場所を探して焦っていると、カーテンをつかむ彼女の手首にピンクの花柄のシュシュがついているのが見えた。
ドクン、と心臓が大きな音をたてる。
自分の左手首についた、彼女と色違いの花柄のシュシュに右手を添えたとき、響が低くて優しい声で彼女を呼んだ。
「梨里……」
小さな物音がして、彼女の手がカーテンから離れる。
シュシュのついた手首が、カーテンの向こうに消えた。
「ちょっ、響?」
「遅刻がダメなら、サボれば?」
「何言って……ん…ふっ……」
反論しようとする彼女の声が、何かに呑み込まれる。



