「あ、しまった……」
「どうしたの、柑奈」
音楽の授業が終わって教室に向かって帰る途中、急に声をあげて立ち止まったあたしを、奈津と彩音が不思議そうに振り返る。
「音楽室に筆箱忘れてきた」
「えー、うそ」
「取りに戻る?」
奈津と彩音がそう言って、来た道を引き返そうと足を動かす。
ちょうど歩いていた廊下から一番近い教室の時計を覗き見ると、授業の間の休み時間はもうあと少ししかなかった。
一緒についてきてくれるのは嬉しいけど、ふたりに遅刻させるのは申し訳ない。
「大丈夫。あんまり時間ないし、ひとりで急いで行ってくる」
「そう?じゃぁ、先戻ってるよ」
「うん、そうして」
あたしはふたりに背を向けると、今来た道を走って引き返した。
廊下を突き抜けて、降りてきた階段を駆け上がる。
階段を上った先にある音楽室のドアを開ける。
次は授業がないのか、音楽室には先生の姿も生徒の姿もなく、ガランとしていてとても静かだった。



