「どうしたの?いきなり」

あたしが何も言わずに背中からぎゅっと強く抱きしめ続けるものだから、燿は身動きとれずにずっと困ったように立っていた。

いつまで待っても拘束の腕を解かないあたしを不審に思ったのか、燿があたしの両腕の中でちょっとずつ身体を捻って振り返る。


「どうした、柑奈?」

じりじり動いて横向きになった燿のことを無言でさらに強く抱きしめたら、頭の上にすとんと手のひらが落ちてきた。


「柑ちゃん?」

小さな子どもを宥めるみたいにあたしの髪をゆっくりと撫でながら、燿が極上に甘い声であたしを呼んだ。

その甘い響きにきゅんと胸が痺れる。

このままずっと、その声の響きであたしを呼んでいてほしい。

切実にそう思ったから、恥ずかしいけど心を決めた。


「燿、して……」

懸命に出した声が震える。

でも恥ずかしい気持ちはどうしても隠せなくて、燿の制服のシャツを強く握って、固く目を瞑りながら、燿に届いてるかもわからないくらいの小声で言った。