「別にそんなんじゃ……」

「照れなくていいって。だって俺、いつか言ったじゃん。そのうち、柑奈のほうから『もっとキスして』って言わせてやるって」

「そ、そんなこと言えるわけないでしょ!」

「じゃぁ、もうおしまい」

反論したら、燿があっさりとそう言ってあたしから離れた。

手を伸ばしてぎりぎり届くくらい。

燿との距離が急に離れて無性に淋しくなった。


「そろそろ帰る?」

スクールバッグを持ち直して小さく首を傾げた燿とあたしの間から、つい一瞬前までの甘い雰囲気は消えていた。


あれ、さっきまでのことはあたしの妄想……?

普段と変わらない燿の態度が、あたしを不安にさせた。

大通りのほうへと歩き出そうとする燿の背中が、今朝振られたときに見せられたそれと重なる。


「燿!」

行っちゃう。

切羽詰まった声で叫んで、燿の背中に飛びついてつかまえる。


「行っちゃ、やだ」

「柑奈?」

燿の背中に額を押し付けて、力いっぱいに抱きしめたら、頭上から燿の困ったような声がした。