オレンジ・ドロップ



「んー」

あるような、ないような。

もしかしたらどこかで耳にしてるのかもだけど、噂話に疎いせいかあんまりピンとこない。


「知ってたら、俺と美姫さんの仲を疑うわけないか」

首を捻っていたら、燿が揶揄うように笑った。


「どういうこと?」

「あのひと、仁織の小学生のときの初恋相手らしくてさ。中学のとき、しょっちゅう高等部に通って、仁織が必死に口説いた彼女なんだよ」

「で、どうしてそんなひとと燿は一緒にいたの?」

薄っすらと疑いの目を向けながら訊ねたら、燿がけらりと笑った。


「駅前で仁織と待ち合わせてたみたいなんだけどあいつが遅れてて、暇つぶしに付き合ってた。『中途半端にしか』って言ったのは、仁織が来るまで一緒に待てなくてごめん、て意味」

「何、その紛らわしいの……」

悪びれもなく笑う燿に少し腹が立って、握りしめた拳で軽く燿の胸を叩く。

だけど燿は何のダメージも受けていないみたいで、あたしの拳を一回りほど大きな手で包み込むと意地悪く笑った。