狼少年、拾いました。

 向こうが積極的に話し掛けてきたとはいえ、ぜーラとの約束を破ったことには変わりはない。

 そんなミェルナの曇った顔を見て、何と解釈したのかゼーラはパン、と両手を打った。

 遠い目がきちんとミェルナに向けられ、きらりと輝く。

 「あとね、盗賊に襲われたわ。」

 急すぎる話にミェルナは仰天した。

 「盗賊!?そんなのいるの?」

 「いたのよ、それが。村で報告したら長老の腰が抜けちゃったわ。

 「だ、大丈夫だったの?」

 ゼーラは待ってましたとばかりに口を開く。

 「大丈夫よ!助けられたもの。」

 「誰に?」

 「誰かに。」

 とりつくしまもない返答に戸惑っていると、その反応を楽しむかのようにゼーラは続けた。

 「村の人じゃなかったってこと以外は分からなかったの、暗くて。でもなんだか……特別な感じがしたわ。さーっとね、森の中へ消えてしまったの。信じられないくらい速く。」

 瞳を宝石のように輝かせながら語る。

 そんなぜーラを尻目に、ミェルナの頭のなかでは推測がぐるぐると這いずり回っていた。

 (もしかしてレスクが?でも怪我していたし……。いや、あの傷がつく前なら動けたのかしら。)

 「……。」

 「どうしたの、黙っちゃって。」

 「あまりのことで言葉が出なくて。」

 考えていることをそのまま話すわけにもいかず、ミェルナは嘘をついた。

 (もしレスクだったとしたら…...ゼーラのことを見て、なんて思ったのかしら。)

 そんなミェルナに気付いているのかいないのか、ゼーラは続けた。

 「でね、わたし思ったの。盗賊がいたみたいに、これからも本みたいなことがまた起こるかもしれないわ。だからね、前向きにやってくわ。いつもの生活でも、ちょっとでもいいことを見つけられたらそれはそれで幸せじゃない?」

 宙を見上げたその目は、相変わらず美しく周りの景色を映していた。


 レスクが眠っているのを起こしてはいけないと思い、なるべく音を立てないように気を使いながらそろそろと引き戸を開けた。

 だがその必要はなかったようだ。

 (なんだ、起きてたのね。)

 薄明かりの中に、包帯を巻かれた背中がぼんやりと浮かんでいる。

 座っているようだ。

 しかし、扉を開けたにも関わらず反応がない。

 こちらを向かないその背中が、なぜかとても暗いものを帯びているように見えた。