少し先にある低木の根本に、白い欠片のようなものが落ちている。 

 「あれ…なにかしら。」

 それは昨晩雨が降っていた森の中にあるには不自然なほど白く、陶器のように滑らかで艶がある。

 歩み寄って手を伸ばそうとしたが、後ろから聞こえてきたスティーヌの言葉で手を引っ込めた。

 「これはカゲヌノのものだな。」

 「か、カゲヌノの!?」

 突き飛ばされたかのように慌てて後ろへ下がるミェルナ。

 入れ換わるようにしてスティーヌが欠片へ近づいた。
 
 「この近くにいるの…?」

 地面を少し透かしている黒い背中に問いかける。

 「いや、これは死骸だ。あの少年はきちんと役目を果たしはしたようだ。」

 レスクのことだ。

 彼は今どうしているのだろう。

怪我などしてなければいいが。

 少し俯瞰して見ると、木々に引っ掻き傷のようなものがついていたり、茂みが踏み荒らされていたりと、この辺りで何かあったことは確かなようだった。

 「大丈夫かな、あの人。」

 思わずぽろっとこぼすように呟いた。

 その一言が聞こえていないのか、スティーヌは再び立ち上がり歩き出した。

 「ねぇ。あの人の匂いはしないの?」