「心ここにあらず、という感じか。」

 隣を歩くスティーヌが唐突に言った。

 「そんなことないわ。」

 木の根っこをまたぎながらミェルナは答える。

 レスクと後味の悪い別れ方をした昨日の晩は、ものすごく寝付きが悪かった。

 寝具の中で、降り始めた雨の音を聞きながら何度も寝返りを打ち、意識が眠りの中におちてくれるのを長いこと待っていた。

 そして今朝、雨上がりの森の匂いを吸い込んで、爽やかな朝の日差しを浴びても、大きく伸びをする気にはなれなかった。

 スティーヌはそんなミェルナを見ても何も言わなかった。

 だが、洗濯を終えて昼前にキノコと薬草を採りに山奥へ入った今になってやっと、このことに言及したのだ。
 
 「そうか。ならいいが、ぬかるみに足を取られるなよ。折角採った茸を泥まみれにはしたくないからな。」

 「私の言い方が悪かったのかしら。」

 返事になっていないミェルナの一言。

 (やはり気にしているのだな。)

 ミェルナの曇った顔を見て、早くあの少年を追い出したかったばかりに二人の間に仲裁に入らなかったことを、スティーヌは心の中で密かに後悔した。

 「非があるとすればあの男の癇癪とも言える程の機嫌の悪さだろう。まあ彼も望んでその体質に生まれたわけではないだろうがな。」

 「昨日まで、そんな人には思えなかったけどなぁ。」

 引っかかりそうなところが引っかかっていない所と、比較的大きく見つけやすい木の根に足を取られて転倒した所を見ると、やはりミェルナは上の空のようだった。

 「キノコじゃなくて私を助けてくれても良かったんじゃないかしら。」

 自分ではなく籠をしっかり抱えたスティーヌを湿った地面から恨めしげに見上げながら、ぼやいて立ち上がろうとする。

 だが何か珍しいものが目に入って動きが止まった。