「随分と生意気言うようになったのだな。何回も起こしたのだが。」

 彼の名前はスティーヌ。

人間ではない。

 丸みのある角の取れた長方形から細い手足が伸びたような形の、透き通った黒い影のような姿をしていた。

 このスティーヌと、ミェルナは村はずれの小さな小屋で薬師として暮らしていた。

 村人の誰かが怪我をしたとか病にかかったとか、そんなときに薬を処方し、その礼で生きていた。

 両親はもういない。

 ミェルナが3歳くらいまでこの丸太小屋には母がいたが、役人に連れていかれたきり帰ってきていない。

 きっと殺されたんだろう、と村人は娘のミェルナの前で噂した。

 元から良い顔を見せなかった彼らだったが、母がいなくなって以来目に見えて白い目を向けるようになった。

 スティーヌが現れたのはきっとこの頃だったように思う。

 どうしてこんなに村八分にされているのだろう、と物心付いたころから考えていたが、母がいなくなってからその疑問は心の中で大きくなっていった。

 一度、スティーヌに尋ねたことがある。

 「薬師なんて気味悪がられて当たり前だからな。そうじゃなきゃ変に崇め奉られるかだ。」

 あまりに無造作に答えられ、ミェルナは肩透かしをくらったような気分になったのを覚えている。

 「わたしは気味悪くないわ。」

 「私もそう思うが。見慣れないものを気味悪がる者もいるということだ。」

 散々考えを巡らせた結果、きっとこの髪と目のせいだろうと結論付けた。

 村の人たちは老若男女、髪は焦げ茶色で瞳は常磐色だった。

 自分の髪はもっと淡い色、朽ちた花にそっくりだった。

 目は緑どころか烏のように黒い。

 きっとこの瞳がおぞましいのだろう。

 瞳は心の窓、と母が言っていた気がする。

 ほんとうにその通りだと、つくづく村人に会うたびに思っていた。

 彼らのあの目。

 ウジでも見るようなあの心の窓は、彼らが自分をどんな風に思っているのか鮮明に映し出していた。