除け者に自分の主人の名前を呼ばれたのが気にくわなかったらしい。

 なぜだか村の女性は皆そうだった。

 頭の中で何か不快な音がしたが、息を軽く吸って言い直す。

 「…あの人の容態はどうなの?」

 「まだ治らないよ!ほんとに効くのかい、この粉は?その辺の隅に溜まってたホコリじゃあないだろうね?」

 「もちろん違うわ。3日経っても腫れが引かないなら、こっちの軟膏を塗ってみてくださいな。」

 手渡された袋をぶん取るように受けとるおばさん。

 「なら良いんだけどね。もし毒かなんかだったら、タダじゃあ置かないからね!」

 そう吐き捨てると木の向こうへそそくさと姿を消してしまった。
  
 嫌味を言われるのは慣れている。

 むしろ感謝されることの方が少ない…というかそんなありがたいことはめったになかった。

 誰もいなくなった森を見るともなしに眺める。

 分厚い木の葉の層に日差しが遮られ、朝だというのに薄暗い。

 「なんで起こしてくれなかったのさ。」

 そうぼやくと、部屋の隅に立っていた影がゆらりと揺れた。