その姿の不気味さといったら。

 ミェルナは手足の先が凍りつくのを感じる。

 「急げ!」

「でもこの人が!」

「何を言っている!」

 スティーヌが珍しく声を張り上げた。

 こうなったらヤケクソだと、そんな言葉が頭の中に飛び出してきた。

 怪我人にしがみつく。

 そして無我夢中で引っ張った。

 隣でスティーヌが何か叫んでいる。

 だが耳に入らなかった。

 見えない壁の外側にいる怪我人を渾身の力をこめて引き寄せる。

 しかし努力も虚しくまるで固い地面に根をはる大木のように彼の体は動かなかった。

 (お願い…!彼を中へ入れてあげて!)

 黒い何かとの距離が、どんどん近くなってくる。

 「もう!今日は厄日だわ!」

 思わずそう声を張り上げたとき、二人は見事に後ろへひっくり返った。

 怪我人を前で抱えた状態のまま後ろに倒れたため、のしかかった形になった彼の体から抜け出すと、“何か”が立ち往生しているのが見えた。

 あの壁のお陰でここへは来れないのだと分かり安心したが、その不気味さに思わず身震いした。

 真っ白で妙に光を弾く仮面には、血走った目が飛び出すようにギョロリと見開かれている。