「あのさ、体育祭が終わったら話あんだけど」
細井は突然立ち止まって振り返ると、いつになく真剣な表情で私を見据えてきた。
「何?話って……今じゃ駄目なの?」
そう言ってみるけど、なんとなく何の話か見当がついて私の心臓は鼓動を速めた。
「後で話す」
交わる視線。
多分、細井もめちゃくちゃ緊張してるんだと思う。
本気が伝わってきて、私は震えた声で「うん…」って答えるので精一杯だった。
クラス別リレーはそれどころじゃなかった。
皆がバトンを繋いでる間も、私はさっきの細井のことばかり考えてる。
応援合戦の後で着替える時間がなく、長ランにアンカーのタスキを掛けてスタンバイしてる細井。
奴にバトンを渡すのは、私だ。
こんな状態で上手くバトンを渡せるのかな。
細井と目が合うだけで凄くドキドキするのに……
「次の走者、位置について」
審判の先生から声が掛かる。
私は重い腰を上げて、スタートラインについた。
気持ちを切り替えなきゃ。
何度も“平常心平常心”と頭の中で唱えて、雑念を追い払う。
「綾音ゴー!」
そして、私の前の走者の声が聞こえて走り出した。
前を向いて走りながら右手を腰の位置で固定してバトンを待つ。
パチンと快音を鳴らして手のひらにバトンが渡されると、私はぐんっとスピードを上げた。
雑念はもうない。
私のすぐ前には現在一位の敵のハチマキがたなびいている。
徐々に距離を詰め、コーナーに差し掛かった頃にはその背中とあと1メートルも差はなかった。
抜ける!
そう確信した時、並んで応援席の前列に座る葉山と渡先輩の姿が見えた。
葉山っ……
ズキン、と胸が痛く重く震える。
さっきまで景色は流れ、雑念も何もなかったのに。
二人の仲睦まじい姿に一瞬時が止まった。
「あっ‼︎」
転ぶっ……!
ヤバいと思った時にはもう視界は土のみ。
全身砂だらけ。
膝に痛みが走り、数人の走る足音が私を追い越して行った。
はっきりとは聞き取れないけど、笑い声やら話し声が聞こえてくる。
私、笑われてるのかも……
それとも、せっかく一位になれそうだったのにあの子のせいで……とか話してるのかもしれない。
何もないところで転んじゃって、顔を上げるのも恥ずかしい。
それに、葉山にも見られてるのに……
渡先輩はザマーミロって心の中で嘲笑ってるんでしょう……?
もう嫌だ。
足は痛いし、恥ずかしいし、もう棄権しちゃおうかな…
一度折れた心はすぐには元に戻らない。
そう思ってたのに。
「綾音!」
ちらっと棄権の文字が頭に浮かんで弱気になった時、スタート地点の方から私を呼ぶ細井の声が耳に届いた。
細井は突然立ち止まって振り返ると、いつになく真剣な表情で私を見据えてきた。
「何?話って……今じゃ駄目なの?」
そう言ってみるけど、なんとなく何の話か見当がついて私の心臓は鼓動を速めた。
「後で話す」
交わる視線。
多分、細井もめちゃくちゃ緊張してるんだと思う。
本気が伝わってきて、私は震えた声で「うん…」って答えるので精一杯だった。
クラス別リレーはそれどころじゃなかった。
皆がバトンを繋いでる間も、私はさっきの細井のことばかり考えてる。
応援合戦の後で着替える時間がなく、長ランにアンカーのタスキを掛けてスタンバイしてる細井。
奴にバトンを渡すのは、私だ。
こんな状態で上手くバトンを渡せるのかな。
細井と目が合うだけで凄くドキドキするのに……
「次の走者、位置について」
審判の先生から声が掛かる。
私は重い腰を上げて、スタートラインについた。
気持ちを切り替えなきゃ。
何度も“平常心平常心”と頭の中で唱えて、雑念を追い払う。
「綾音ゴー!」
そして、私の前の走者の声が聞こえて走り出した。
前を向いて走りながら右手を腰の位置で固定してバトンを待つ。
パチンと快音を鳴らして手のひらにバトンが渡されると、私はぐんっとスピードを上げた。
雑念はもうない。
私のすぐ前には現在一位の敵のハチマキがたなびいている。
徐々に距離を詰め、コーナーに差し掛かった頃にはその背中とあと1メートルも差はなかった。
抜ける!
そう確信した時、並んで応援席の前列に座る葉山と渡先輩の姿が見えた。
葉山っ……
ズキン、と胸が痛く重く震える。
さっきまで景色は流れ、雑念も何もなかったのに。
二人の仲睦まじい姿に一瞬時が止まった。
「あっ‼︎」
転ぶっ……!
ヤバいと思った時にはもう視界は土のみ。
全身砂だらけ。
膝に痛みが走り、数人の走る足音が私を追い越して行った。
はっきりとは聞き取れないけど、笑い声やら話し声が聞こえてくる。
私、笑われてるのかも……
それとも、せっかく一位になれそうだったのにあの子のせいで……とか話してるのかもしれない。
何もないところで転んじゃって、顔を上げるのも恥ずかしい。
それに、葉山にも見られてるのに……
渡先輩はザマーミロって心の中で嘲笑ってるんでしょう……?
もう嫌だ。
足は痛いし、恥ずかしいし、もう棄権しちゃおうかな…
一度折れた心はすぐには元に戻らない。
そう思ってたのに。
「綾音!」
ちらっと棄権の文字が頭に浮かんで弱気になった時、スタート地点の方から私を呼ぶ細井の声が耳に届いた。

