覚えていることは、一つもない。


自分も犯した罪も、何もかも。


僕の父親と母親という人物が、何回かこの病院に訪れたが、どちらも僕のことにはあまり興味がなさそうだった。

記憶を失くす前の僕は、あまり彼らには愛されていなかったようだ。

友達と呼べるような人は、一人も訪れなかった。

僕は、友達がいなかったようだ。


病院の外で、鳥が鳴いている。

こんなに寒い季節なのに、何も知らずに寒空をスカスカで空っぽの体で飛んでいる。





何も覚えていない僕は、不幸なのだろうか?

それとも、記憶を失くす前の罪や冷めきった親子関係を知らない僕は、

ある意味幸せといえるのだろうか?____________