背の低い雨雲が空を覆っていた。
朝は眩しいくらいに晴れていたのに、今は雨粒が大きな音を立てて何の柄もない黒傘を打ちつける。
雨はキライだ。
濡れるし歩きにくいし、傘なんて差さないといけないし、なんか気分も上がらない。
周りの風景も色気が薄れ、まだ5時だというのに薄暗い。
元より人通りの少ない帰り道はいつにも増して少ないようだ。
子供みたいに態と水溜りを強く踏むと、跳ね返った水が膝まで達した。
パシャ、パシャ、と水溜りがある度に踏んで歩く。
降り出してそんなに経っていないのに、水溜りがこんなにあるのは雨が強すぎるせいか。
この間18歳になって体も大きくなってきたが、それでもこの黒傘は大きく感じる。
なのに、前から後ろから、横から、傘をすり抜けるかのように俺の服を、体を濡らしていく。
「好きだよ」
雨の音に混じり透き通る様な声が聞こえた。
告白?
小さな声だがリズムに乗っている様にも聞こえる。
すぐ目の前にある曲がり角を曲がると、傘も差さずフラフラと歩いている女がいた。
俺と同じ制服。
何となく見覚えのある後ろ姿。
「涙の雨 過去にかえる
赤い傘 暗い空を美しく彩る
そのキスでこの悲しみも全て忘れさせて」
心成しか震えている声は、泣いているからなのだろうか。
普通の声でも聞こえない筈の雨の中、女の小さな声が妙に耳に響く。
「あなただけで満たして」
“振られた女を他の男が慰める”
俺にはそんな曲に聞こえた。
「何してんすか。」
誰かは分からないが傘に入れる。
女は立ち止まりこちらを振り返る。
ずぶ濡れの女は、俺の知っているやつだった。