「怒んねーんだな、健吾くん」

「怒らないでしょ…高校生相手に」

「それ、俺のこと言ってんの、それとも自分?」



翌朝、家の前で一緒になった靖人とバス停に向かいながら、そんな話をした。

健吾くん、怒らなかった。

びっくりしてはいたけれど、説明を求めるでもなく、人の家にお邪魔している最中の礼儀正しさを失わないまま、『手が空いたら下りてきて』と微笑んで、ドアを閉めた。



「今日はグラウンド使えんのかなー」

「もうすぐ試合だもんね」



靖人が斜めにかけている、だいぶくたびれたエナメルバッグを、応援のつもりでぽんぽんと叩いた。

厚い雲の割れ目から、鋭い太陽光が目を射す。

きっと午後は晴れるに違いない。


今日は校内模試だったりする。

模試が多すぎて、回を追うごとに緊張感がなくなってきているんだけど、これはいいのか悪いのか。



「英語、やってんの?」

「そりゃもう、もらったサイドリーダーがすり切れるくらい」

「データだったよな?」

「比喩だよ、比喩」



じゃれあっているうちに、バスが来た。



朝からぶっ続けで6教科の試験。

昼休みの後、英語の試験中に、ポケットの中で携帯が短く震えた。


あっ、しまった、切っておくのを忘れた。

当然ながら今、出して見ることはできないけれど、なぜか、健吾くんからだという確信があった。

たぶん、最近ゆっくり会えていなかったし、昨日もほとんど話せなかったから、近々部屋においでっていう連絡だと思う。


行って、なにを話せばいいんだろう。

ほんとに全然、怒ってないの、健吾くん?

腹も立たないの?

なんで?


…私は、怒ってほしかったんだろうか。

わからない。