「あいにくのお天気ですねえ」

「でも雨の日はものの匂いが濃いなんて言いますから、この子には楽しいかもしれません」

「お名前を決められたとか?」

「ええ、でも最終的には会ってから決めようと思って、候補だけ」



美菜さんのご両親と、靖人のお母さんと、美菜さんと健吾くん。

それから私。

さらにそれから、部活が筋トレだけになったので早く帰ってきたら居合わせてしまった、靖人。

総勢7名が、靖人の家の広いリビングに集まっていた。


あちこちが初顔合わせなので、挨拶だけでも時間がかかった。

美菜さんのご両親と健吾くんも初対面で、「いつも娘がお世話になっております」なんて言われて「こちらこそ」なんて言って。

「素敵な同僚がいていいわねえ」とかおばさんに言われた美菜さんは、どういうポジションに立てばいいのか迷った様子で、「そうですね」と控えめに答えたりして。


当然ながら、その場は"親"と"同僚組"と"子供たち"という三世代に分けられて、私は"小瀧家の息子さんのお友達"として、追加でソファの横に並べられた椅子の、靖人の隣に存在していた。

よけいな説明をせずに済んだのをほっとする反面、健吾くんの隣の美菜さんの言動が、気になって気になって仕方ない。


当の犬本人は、久しぶりに会った健吾くんのもとにすっ飛んでいって膝に乗り、そこから人間たちを睥睨している。

身体もよくなってきて、だいぶ本来の気の強さが出てきたみたい。



「かわいい子ね」

「俺のこと、覚えててくれたんだなあ」

「いくも罪な男ねえ」

「こいつ、オスだよな?」



美菜さんが、健吾くんの膝の上の犬をなでる。

ふたりで顔を見合わせて、なにか話しては笑う。

その距離感が、ただの同僚以上に近く見えてしまうのは、単に私が、知ってしまったからなのか。

ダメだ、つらい。



「おい」



ティーカップに目を落としていると、靖人に肘で小突かれた。