そういえば、手術代だって健吾くんが出したんだ。

10万じゃきかなかったはずだ。



「あの」

「そこは気にすんな」

「まだなにも言ってないんだけど」



健吾くんの膝に移りたがる犬をよしよしと引き止めていると、ふわふわした顔まわりの毛並を、健吾くんが指でくすぐった。

そうしながら私を見て、ふんと鼻を鳴らす。



「顔見りゃわかる」



最近これ言われたの、二回目。



「ほんと巻き込んじゃった…」

「大丈夫だよ、それなりに貯めてるし。さいわい郁も、金かかんない子だし」

「…金がかかったケースというのを、訊いたらダメ?」

「ダメ」



ちぇっ。

ふくれる私を、ちょっと微笑みながら、横目で見てくる。

こういう顔、かっこよくてずるい。



「そうだ、あのね、卒アル見たんだ」

「え、俺の?」

「うん」

「マジかよ」



恥ずかしそうに、頬杖の手で口元を隠す。



「陸上部だったんだね、種目なに?」

「短距離」



靖人、正解だ。



「中学のときも陸上?」

「そうだよ、球技とか好きじゃなかったから」

「なんで?」

「人と身体がぶつかるのが、なんか鬱で」



そういう理由で陸上選ぶ人っているんだ。