「…それとこれとはさ」

「同じだろ、健吾くんからしたら」

「健吾くんも、そんなふうに思うとき、あるのかな」

「俺は知らん。本人に訊け」



本棚の一番上の、私には届かない場所に、やすやすと収める。

年代順に棚を埋めているアルバムの、健吾くんの代の右側には、徐々に真新しくなっていく背表紙が6冊分。

片手じゃ全部は引き出せそうにない。

それが今の、私と健吾くんとの距離。





【今日行っていい?】

【遅くなるし、明日早いからちょっと無理】

【じゃあやめとく】

【ごめんな】

【会いたいよー】

【我慢】



ため息をついて、携帯をポケットに入れた。

スカートの中で、少し熱を持った端末が脚を叩く。


学校裏を流れる川は、県を横断する大きな川の支流で、河川敷は四季折々の植物で彩られている。

梅雨入りしたわりに雨が降らないなあ。

別にいいんだけどね、降らないなら降らないで。


川を渡ってすぐの細い路地を入り、雑居ビルの間に遠慮がちに建っているプレハブ小屋の、油でぺとぺとしている引き戸を開けた。

客席にはちょうど誰もいない。



「こんにちは」

「おっ、来たな」



イケメンつけ麺屋、と自称しているふざけた店長さんが、焼けた顔をにこっとほころばせる。



「バイトさせてもらえます?」

「もちろん。制服のぶん、バイト代割増ししちゃうよ」

「あ、そういう趣味?」

「俺じゃないよ、お客さんが喜ぶからね」



どうだかなあ、と思いながら、制服の上にエプロンをつけ、店長とおそろいの、お店の黒いバンダナを三角巾みたいに頭に巻いた。