「真面目なんだか、なんなんだか」

「ただの保身だよ」

「大学生だったらよかったの?」

「いや、それでもやっぱり、初めての子ってのは、ああいう流れではできれば避けたい…」



そういうものか。

健吾くんが、肩に垂らした私の髪をなでて、毛先を指に挟んだ。



「こうやって見えるくらい長さあったら、確かに傷みとか気になるよな」

「順番が違うよ。長いと傷みやすくなって、毛先を眺めちゃうの」

「あ、そういうこと?」

「下心なかったのに、なんでいきなりああいうことになったの?」

「その話はやめろって」



よほど悔いているらしく、健吾くんはあの日の話をしたがらない。

こっちとしては、出会った日でもあり、沸騰するみたいに短時間で人を好きになった日だから、いつでも振り返りたいのに。



「私が誘ってると思った?」

「そこまでは…」

「やれるかも、と思ったら試したくなった?」

「頼むからやめて…」



後ろから抱きついてくる頭をなでると、手に触れる耳が熱い。

このあたりが図星ってとこかな。



「健吾くんも男なんだね」

「言っとくけど男って繊細なんだからな、それ以上いじるとほんとに傷つくぞ」

「そしたら私がなぐさめてあげるよ」



顔をそちらに向けると、望んだ通りキスをくれる。

照れ隠しの、ちょっと乱暴で熱っぽいキス。


昨日のことみたいに覚えてるよ。

ひと通り謝罪が終わった後、私たちはいろんな話をした。

ベッドの上で、買ってきたドリンクやお菓子を食べながら、学校の話もしたし仕事の話も聞いた。

健吾くんは年上ぶった猫なで声を出すこともなく、義務で話を続けているような無理を見せることもなく、不思議に話しやすい相手で、私は初対面の人にはしないようにしている両親の話までした。

すると健吾くんは少し考え、『そっかあ』と言ったのだった。



『大変そうだな』

『うーん、まあね』

『高2じゃ、周りの奴はまだ親の悪口言ってるだろ。そういうの聞こえたら、悲しくなっちゃうな』