好きなんだけど!

郁実が"子供"じゃないように、健吾も"大人"ではないのだと、どう説明したらわかってもらえるのだろう。

そんなふうにくくれるものじゃなくて、結局はお互い一対一で、ぶつかったり寄り添ったりしながら相手を知っていくだけなんだと。


待つしかないんだろうなあ、と健吾は思った。

結局、またひたすら待つしかないんだろう。

もしかしたら、郁実が今の健吾と、同じ年齢になるくらいまで。

まあ、それもいいかと考えながら、車を出した。



「あ、やべ、今のところ曲がればよかった」

「お風呂一緒に入ろうね」



郁実が健吾の左手を取り、きゅっと握ってくる。

そういうこと言うと、また曲がり損ねるぞ、と大人げなく人のせいにしてみる。



「手、すっごい熱い」

「…発情してんだろ」

「今日はこっちの日かなあ?」



横目で笑って、また猫みたいな手の動きをしてみせる。

いつだってこっちの内心はそんな状態だよ、バカ。

人の気も知らないで、ほんと悪魔。


切り返しのできそうなスペースを見つけたので、車をバックで入れて、逆方向に向かう。

ほぼ片手をつないだままそれをしたせいか、「健吾くん運転うまーい」と郁実が大喜びした。

さっきまで後ろにあった海が、また目の前に開ける。


郁、たとえばね。

お前が誰か、一生一緒にいたいと思う相手を見つけたとして。

それが俺だったらいいなって、そのくらいは思ってるよ。


まだ大学に入ったばっかりで、そういう話はただの重荷だろうから、はっきりとは言わないけれど。

でも知っていてほしい。

郁がもしかしたら自分でも気づかずに、ずっと欲しがっていた、"どこにも行かない誰か"が、ここにいるかもしれないってこと。


気づけば、郁実の手も温まってきている。

健吾の熱が移ったのか、それとも郁実自身の熱なのか。

ちらっと見ると、また猫の手と、問いかけるような瞳。

勘弁してくれよ、と途方に暮れるような思いで、手を握り返した。



「どうだろうな」



いつか伝わるといい。

いつか伝われば、それでいい。



そんなことを考えながら。





Fin.