好きなんだけど!

ベルトに阻まれている感覚に刺激されたのか、ちょっと軽くつまむ程度で済ますつもりだったキスは、なぜかなかなか終わらせることができず。

視界の端で、信号が青に変わったのを認識しつつ、角度を変えて、甘さも足して、舌も歯も唇も使って、郁実の唇を貪った。


十分ではないものの、多少気が済んだところで顔を離すと、郁実の大きな瞳がぱっちり開かれて、じっとこちらを見ている。

まさかずっとそうしてたのか、といたたまれない気持ちに襲われたとき、その瞳が、にっと笑んだ。



「健吾くんがぎらぎらしてるの、エッチで好き」

「え、…え?」



ぎらぎら?

今?

どこかにそんな兆候があるのかと、慌てて腕で口元を隠すと、郁実は喉を鳴らして笑いはじめた。



「たまにしかなってくれないけど」

「俺、自分だとわかんない…」

「ほんと、たまーにね」



引き寄せたひざに顎を乗せて、顔をかしげてこちらを見る。



「入れる直前とかに、ガオーってなってくれてるの、感じるときがあって、すごく嬉しい」



言いながら、片手で爪を立てるまねをしてみせるのがかわいくて、だが言われている内容があまりに恥ずかしくて、健吾はなにも言えなくなり、バカみたいに口を開けていた。

今、自分絶対、顔赤い。



「でもたいていは、けっこう冷静で、たぶん私の反応とか状態とか、気をつかっててくれてるんだろうなあって」



郁実が視線を前方に戻して、つぶやくように言う。



「私、早く、健吾くんに夢中になってもらえるようになりたいよ」



心臓が暴れて、肋骨が痛くなってきた。

そんなことを考えていたのか。



「…なってるよ」

「嘘だあ」

「全然冷静じゃないよ」

「そうなの?」



まったく信じていない顔で、それでも笑ってみせる。

男なんてみんな、最中は頭真っ白だよ、と教えてやりたいが、そんな一般論の話をしているのではないし、今言ったところで信じないだろう。


郁を傷つけないよう、必死にやってる結果だよ。

大人だからじゃない、郁が大事だからだよ。