好きなんだけど!

腕にそっと触れられる。

顔を覆っていた手を外すと、様子を探るような、不安そうではあるものの、その実たいして反省していなそうな顔と出会う。


かわいい。

なにかを信じきれずにいるような、遠慮がちなところとか、なのにこういう悪びれない素直さを見せるところとか。

きっと最初から、好きだった。


好きなら高校生だろうが関係ない、なんていうのは綺麗事だ。

関係ないわけない。

むしろプラスに働くことがあるわけもなく、待ったり遠回りしたり、すれ違ったりが多発するだろうし、その原因の大部分は、"郁が高校生で、自分が社会人だから"に集約されると予感していた。

そしてその通りだった。


それでもよかった。

健吾がいることで、郁実が少しでも楽しく安らぐなら。



「俺、実は今まで、相手って同世代しかいなくてさあ」

「えっ、そうなの」

「年上も年下も皆無で、見事にタメ専門」

「ほんと、よく私とつきあってくれたね」



郁実が感心したように言う。

我ながらそう思う。


『いいよ』と言ったあの瞬間、衝動のように思いが湧いたのだ。

この子のものになってあげたい、と。


その気持ちに抗う理由も見つからなかった。



「弟も妹もいないよね?」

「すっげえ上に、兄貴と姉ちゃん」



ふたりは年子で、ぽこんと離れて健吾が生まれたので、物事がわかる年ごろになると、事故ったんだな、と冷静に自分の出生を受け止めるようになっていた。

兄も姉も、どちらかというと親寄りの存在だったので、一人っ子に近い感覚で健吾は育ったのだけれども。

博愛主義者でもないし、自分を面倒見がいいと思ったこともない。


郁実だけだ。

郁実だけ。


ちらっと横を見ると、靴を脱いだ足をシートに引き上げて丸まっている郁実が、ぼんやりと見ていた前方から、ぱっとこちらに視線を移した。

シートベルトの許す範囲で身体を傾け、ついでに郁実の腕も引っ張って、唇を合わせる。