言いながら、自分で照れくさくなってしまったみたいで、なぜか笑いだす。

恥ずかしそうに笑いながら、「え、うん」とか言いつつソファの上で体勢を少し変えて、また甘い優しい声を出して。



「だから、それまでは無理、ごめんな」



私はといえば、廊下で立ち尽くしていた。



「その後? 好きにしたらいいよ、うちに来てもいいし、俺が出てもいいし。郁実とも一緒に話さないとな」



私ってば。

いつの間にか、ひとりで生きているような気になって。

つらいことも悲しいことも、全部自分の世界の中で完結できているような気になって。

あんたほんと子供だよ、郁実。

大事なこと忘れちゃって、勝手なことばかり。


目と耳の中間あたりがツンと痛くなってきて、これ以上ここにいると泣くなと思った。

足音を忍ばせて、お風呂場に向かう。


ねえ私、考えないとね。

自己嫌悪に浸っている場合じゃないよ。

これからどうするべきなのか、考えるんだよ。





「お、よくなったのか」



翌々日、隣の家を訪ねると、靖人が前庭でヨーを洗っていた。



「うん、お陰様で。これ回覧板」

「サンキュ、そこ置いといて」



泡まみれの手で縁側を指す。

言われたとおり、真夏の日差しで熱された縁側に回覧板を置いたものの、即座に立ち去るのも不自然な気がして、そのあたりに漂っていたら、靖人が笑って手招きした。



「お前、わかりやすいな」

「あのー、お手伝いしましょうか」

「なんで敬語なんだよ」



海パンとTシャツ姿で、自分も水浸しになりながら、泡だらけのヨーをがしがしと洗う。

耳が垂れて毛の長いシェパードといった雰囲気のヨーは、気持ちよさそうに目を半分閉じて、舌を出している。

ヨーももとは捨て犬で、まだよちよち歩きの頃、このへんに迷い込んできたのを靖人が拾ってきたのだ。

当時は真っ黒でふわふわでぬいぐるみみたいで、一目見た獣医さんに『この子は大きくなるよ』と言われたものの、まさかここまでとは誰も思っていなかった。