「まあ、ケンカしないで済むのが一番だけ」



ど、という語尾はキスで消えた。

私の顔をのぞき込むように身を屈めた健吾くんが、優しく言う。



「俺も、怖がらせないようがんばる」

「…うん」

「怖いって言われんの、きついな。知らなかった」



苦笑しながら空を見上げる彼の髪を、風が揺らした。



「そうなんだ」

「嫌いって言われるよりきつい気がする」



それはたぶんね、どこかで私の保護者っていう感覚があるからだよ、と思ったんだけど、言わずにおいた。

繋いだ手の温かさを噛みしめて、肩に頭を載せる。

頬ずりするみたいに、それを迎え入れてくれる。



「代弁してみ」

「うーん…郁がかわいくて困る?」



健吾くんは声を立てて笑い、あいているほうの手で私の顎をすくい上げて、もう一度、今度はゆっくりしたキスをくれた。



「当たってる」



酔っているっていうのも、本当なんだろうな。

このベタベタな感じは、素面のときじゃなかなか出ない。


せっかくなので甘えようと思ったとき、人込みの中に目が行った。

凍りついた私の視線を追って、健吾くんが振り返る。

少し離れたところに、たぶん私たちにと買ったフードやドリンクを胸に抱えて、美菜さんが立ち尽くして、こちらを見ていた。



「…青井」

「え、なにしてるの、いく…郁実ちゃんと、そんな」