桜の花びらが舞う頃に

それから奏は本当に毎日来るようになった。





テニス部に所属しているらしい。






今はまだ白いけど、夏になったら真っ黒になるんだって。




「なぁ結芽、窓開けていいー?」

「どーぞー」





奏が病室のドアを開けると、ぶわっと春風が吹き込んできた。





吹き込んできたのは風だけじゃない。





桜の花びらもだった。





「わぁ、綺麗…」

「あの桜の木か?」





病室からは病院のすぐそばにある丘が見えた。




そこには、桜の木が生えている。





「私、もう外に出られないからこうやって桜を見たの久しぶりかも。」

「………じゃあ、今度俺が連れていく。」

「え?」

「結芽の病気が治ったら一緒にあの桜の木の下でお花見しよう。」






叶わない約束はしたくない。





それが私の気持ちだった。





「奏、私ね、もう治らないの。
この前お医者さんに言われた。
今は薬で死ぬのを遅らせてるんだって。
だから、その約束は叶えられない。」





すると、奏はニヒヒと笑った。





「大丈夫、俺が叶えてみせるから。」





そう言ってピースする奏の言葉はなぜか信じることができた。