短く言われた瞬間、私は自分の顔に熱が一気に集まるのを感じた。赤面してるのが自分でもわかった。それを指摘されたら恥ずかしくて死ねる。
夏だからジャケットを持っているだけで済んだけど、もし冬だったら羽織らされてるとこじゃない? と妄想がもくもく加速して、されてもいないことで顔を熱くしているとか、余計に恥ずかしさが止まらない。ばかか、私は。
わかってるよ? お姫様というのは、私の名前の姫里にひっかけただけだ。愛おしいものに喩えたわけじゃない。自分のことをお姫様とか、断じて思ってない。
だけど、なんの心の準備もしていないところに面と向かってそんなふうに言われたら驚くし、一瞬くらいは勘違いもするよ……。
瑛主くんの発言をジョークとしてまとめるにはあまりにも遅すぎた。もうなにを言ってもしらけるだけなので、話を逸らす方向でいく。
「今日、ボディータッチ多くない?」
「誰が? 俺?」
「自分からは触らないぞ的なこと言ってたくせに」
ややあってからの反応はこうだ。
「言った?」
ずるい。もう、いろいろと。
だいぶなまってるなあ、とサワダ(仮)さんが戻ってきた。代わりに瑛主くんがなかに入る。
サワダ(仮)さんは私の抱えている瑛主くんのジャケットに目を落としたものの、特に追及はしなかった。
「現役時代はもっと打てたんだけどな」
「それで、どうでした?」
「どうって……えっ、姫ちゃん今、僕のこと見てたんじゃなかったの」
しょげるかと思いきや、超ウケるとか言って笑いだすサワダ(仮)さん。
「ブランクあるわりにまあまあ打ってたでしょ。長打もまあまああったし」
つまり、まあまあだったってことですよね。
「あっ、瑛主くんが打ちますよ!」
「ちょ……おーい、聞いてよ」