成瀬さんの両手をつかみ、よいしょっと
引っ張る。


あー力ある方でよかった。

無事に起きられた成瀬さんの手を離し




「じゃあリビングで待ってますね」




そう部屋を出ようとしたら








「愛花ちゃん待って」





なぜか腕を掴まれた。

その成瀬さんの普段とは違う間延びしない話し方に少しの違和感を覚えた。




「え?」











「…昨日聞きそびれちゃったんだけど
愛花ちゃんは何でここに来たの?」



答えるまで離さないとでも言うように
私の腕をギュッと強く掴んでくる成瀬さん。





私が思うに、成瀬さんはむやみやたらに人の領域に突っ込んでくる人じゃないと思う。


じゃあ何でわざわざ私にこんなことを聞いてくるのか、それはきっと日向君のためで。


突然ひょっこりと現れた私が日向君の害になったりしないか、心配なんだと思う。


…それに成瀬さんはよくこの家に出入りしてるし。




ちゃんと話すのが道理、だよね。





私の腕を掴んでいる成瀬さんの手を見ながらゆっくりと言葉を落としていく。





「…彼氏と一緒に住んでた家を飛び出してきたんです」




「…彼氏?……」




「はい」





「…喧嘩しちゃった?」




ぽかんと驚いた様子の成瀬さんに笑いかける。






「だったらよかったんですけどね。
彼氏に他に女がいたんです。
私は保険だと、そう言われました」





ははっと乾いた笑いをすれば苦い顔をされた。




「…そんな…。
その男と女に何か言ってやった?」





「ーーー言いませんよ。
捨てられたのは私ですから」






元々私なんて先輩の眼中になかったんだから。


先輩の目に映っていたのは加恋さん。






私じゃない。